温泉が好きな筆者は、足を延ばして美作市の湯郷温泉に行くことにした。岡山市から車で1時間半。近場で旅行気分が楽しめる場所だ。温泉街をぶらぶら歩いていると、昭和館というおもちゃ博物館に通りかかった。入り口から独特の世界観が漂っている。温泉ついでに軽い気持ちで寄らせてもらったが、館内にある350点のコレクションに圧倒された。ひとつひとつの展示物も珍しいが、おもちゃが集まると、当時の社会世相が浮き上がってくる。
筆者が心を打たれたのは、太平洋戦争後に作られたブリキのおもちゃだ。どんなに厳しい生活の中でも、子どもと大人はたくましくおもちゃを開発する。立ち寄った昭和館から当時の強い創造力とへこたれない力に出くわすとは思いもよらぬことだった。
まず、衝撃を受けたのは、日本製(Made in Japan)ではなく、占領日本(Occupied Japan)と書かれた缶詰のおもちゃだ。戦後日本はとにかく貧しかった。お父さんはお金を稼ぐためにGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が配給した缶詰の鉄でおもちゃを制作し、それを米国に輸出したそうだ。館長の竹中信清さんは丁寧に教えてくれた。
「ブリキのジープをよく見て下さい。精巧にできていますね。これは、日本の職人さんが目で見て測って、図を書いて缶詰から作り出した車なんです。米軍に気づかれないように車に近づいてタオルで測ったとも言われています。おもちゃは、楽しいものですが、よく当時の生活がわかりますね」
戦争で負けた日本が高い技術でアメリカの子どもたちへおもちゃを輸出していた。筆者の頭に浮かんだのは、おもちゃをもらった子供たちの笑顔と同時に、「一丁つくってやったぜ」と、職人気質のお父さんの姿だ。現在は、IT、AIなどの情報革命で経済が回っているが、日本産業の復興は、ど根性なブリキの車から始まったのだ。
迷路のような館内には、昭和30年代の小学校・教室、理容室、台所、駄菓子屋などが再現されていた。パチンコ台、アイスクリームの保存箱、ガチャガチャ、スーパーカー、特撮アニメ、映画ポスターが所狭しと並べられている。昔、あったような気がする筆箱など懐かしかった。二階へ上がると、プラモデルやSFイラストを描いていた小松崎茂(1938-2001)の原画の他、軍服やライフルなども展示してある。
昭和館は戦争博物館ではない。ただ、戦争と平和が子供の遊びに抜けきれない。読者の方には、小松崎の作品にぜひ触れてほしい。彼の作品は、写真以上に写実的だ。戦時の緊迫した瞬間とストーリー性がぐっと胸ぐらをつかんでくる。加えて、戦争推進派ではない小松崎は、軍部の命令によって戦意高揚の作画を書かされていたのも忘れてはならない。だれもが戦争に巻き込まれる時代だったのだ。
筆者が考えるおもちゃ館の楽しみかたは以下の通りだ。まずは、展示されている作品を楽しむこと。色使いや手作業の細やかさが目をひく。家でずっと眺めていたいものばかりだ。続けて、昭和の時代世相を感じることだ。当時の暮らしぶりから平和や経済成長の意味がにじんでくる。館内を出てタイムスリップが終わると、根性で復興した日本人の気概に賛辞を贈った。
一方で、おもちゃからもメッセージを受けた。「戦争と平和を考えてみて。遊びを忘れないで」。戦後の遊びは、戦争と平和が明確に分かれていない。むしろ、混在しているため、人もおもちゃも心の揺れ動きもあるように感じられた。昭和館を訪れて、読者の皆さんは何を思われるだろうか。筆者は8月になると、終戦について考えるようにしている。おもちゃが貴重な時代であることを確認した方が、平和な社会に近づいていくのだろう。
昭和館に入ると、クイズ用紙が渡される。わからないことは館長さんに聞いてみよう。ただ、質問をしすぎると、筆者のように答えまで聞いてしまうので気をつけたい。ダースベーダーやアイアンマンのマスクも置いてあったので、展示品の入れ替わりはこまめに行われているようだ。竹中館長さん、ありがとうございました。
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岩淵 泰(いわぶち・やすし) 岡山大地域総合研究センター(AGORA)准教授。都市と大学によるまちづくり活動に取り組む。熊本大学修了(博士:公共政策)。フランス・ボルドー政治学院留学。カリフォルニア大学バークレー校都市地域開発研究所客員研究員などを経て現職。1980年生まれ。
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August 03, 2020 at 01:19PM
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おもちゃを通じた暮らしと平和 美作市の昭和館を訪ねて:山陽新聞デジタル|さんデジ - 山陽新聞
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